タイガーマスクというプロット

新しいタイガーマスクW(タイガーマスクダブル)が凄い。ちなみに「W」は、ダブリューではなく、ダブルと発音するのが正しい読み方だ。

最初に言っておくとこの記事は一部の熱狂的なプロレスファンと熱い気持ちを共有するために書いている記事なので、プロレスに興味のない人は、トップページに戻って他の記事を選んで読んで欲しい。


日本のプロレスを語る上で「タイガーマスク」の存在は外すことができない。プロレスを形成するイメージは、例えば、ヒーローとヒール、強い外国人vs日本人、チーム抗争、ロープワーク、凶器攻撃などたくさん挙げられるが、僕の中でのTHEプロレスは「タイガーマスク」だ。もはやキャラクターを超えた、プロレスのプロットというべきか、筋肉がぶつかるエンターテイメントを成立させながら、その中でしっかりと強さを語ることもできる。これぞ僕が理想とするプロレスのイメージだ。


この「タイガーマスク」というプロットは、新日本プロレスの中で、大人の事情で誕生したものだが、初代タイガーである佐山聡の常人離れした身体能力とプロレスセンスによって作り上げられた。佐山タイガー以降も歴代タイガーが存在しているが、どのタイガーマスクも初代のイメージを越えることはできなかった。厳しく言えば、猿真似ならぬ虎真似で終わってしまっていた。三沢光晴のタイガーマスクも確かに強かったが、評価すべきはマスクを脱いだ素顔の三沢光晴であって、三沢タイガーは、本当の意味でのタイガーマスクというフォーマットからは少し逸脱してしまっていたかと思う。


2016年10月10日にアニメの世界を飛び出したタイガーマスクWは、プロレス語録的に言えばモノが違う。扮している人物は、プロレスファンにとってはお馴染みの◯◯というのは周知の事実であるが、そのタイガーマスクは、歴代のタイガーマスクを遥かに超えた、佐山聡が作ったタイガーマスク像を踏襲しつつも、しっかりとストロングスタイルも継承し、独自の解釈でアニメの中のタイガーマスクを表現できている。大人も子供も、プロレスを知らない女性でも楽しめるプロレスがそこにある。個人的には佐山タイガーをも越えるのではないかと思ってしまうほど期待している。だけど◯◯がタイガーマスクになるなんて夢にも思わなかった。


このタイガーマスクに魅了されているのは、ファンばかりではない。対戦したオカダカズチカは試合後、マイク第一声で「どうですかお客さん、ワクワクしたでしょう!」と言っている。この言葉の裏側には、オカダ自身が子供の頃に夢中になっていたプロレス、ゴールデンで放送されていたタイガーマスクのイメージを体現し、自分自身が一番ワクワクして試合を楽しんでいたことが伺える。タイガーマスクWは、ファンにも、対戦相手にも良い刺激を与える存在なのだ。



最後に、マスクの形状についてだが、タイガーマスクWのデビュー戦は、アニメのイメージそのままに立体的なロングノーズのぬいぐるみタイプのものであった。残念ながらオカダ戦では、平面的な通常のマスクに変わってしまった。これは、空中殺法の安全性やその他の運動性能を考えてのことだと思うが、できたらデビュー戦のタイプに戻って欲しい。マスクを作るマスク職人の方たちには最大限のリスペクトを払った上で言うが、プロレスの試合が進化する中で、マスクマンのマスクもまったく新しい姿が見てみたい。宇宙服や登山服などの機能服が新しい素材や技術で進化しているように、プロレスにもまったく新しい機能服を持ち込んでくれるようなマスク職人が現れてくれたら、さらにプロレスが盛り上がるのではないだろうか。


新日本プロレスワールド

※タイガーマスクW過去の全試合が閲覧可能

http://njpwworld.com/


hirock

アパレルブランド「A BATHING APE®」のグラフィックデザインを経て2011年独立。表現の場を選ばないメディアクリエイターとしてのキャリアをスタート。ファッション誌GRINDでの連載をはじめメディア各方面にてグッドデザインアイテム、最新のガジェットを紹介。著書に『I LOVE FND ボクがコレを選ぶ理由』。

https://twitter.com/h_vb